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イチローの現役引退

 一昨日の金曜日には大学で卒業式、修了式があり、自分の研究室の学生たちが巣立っていくところを見守った。定年退職の1年前だから、このような式典に教員として立ち会うことができるのは来年が最後である。そう思うと、今回の1時間ばかりの出来事も自分にとって記憶に留めておくべきことのように思えるのだった。この大学に来て11年目であるが、そういうしんみりとした気分になったのは初めてだ。小生の研究室の学生の場合、今年度は全員、卒業あるいは修了後に進むべき進路が決まっていて、それぞれ自分の未来に希望をもっていることだろう。どのような人生が彼らを待ち受けているのか誰にも分からないが、この大学で学んだことを生かして、皆が困難に打ち勝って幸せをつかみ取ってもらいたいと願うだけである。
 昨日から気温がやや低めで朝晩は上着がないと寒く感じる。早く暖かくなってほしいと思う気持ちが分からなくはないが、小生は、このくらいちょっと肌寒い早春の気候が好きである。大学では、入学が決まった新入生たちが親と一緒にキャンパスの下見に来ていて、生協で生活や学習に必要なものを買っている風景は、見ていて心温まるものである。遠い昔の自分あるいは、ほんの数年前の自分の息子たちが同じようなことをしていたのを思い出す。鏡で白髪頭になり皺が増えた自分の顔を見るよりも、こういうふとした瞬間に、時が流れ、自分が年老いたことを思い知らされる。

 最近の出来事では、イチローの引退のことに触れないわけにいかない。と言っても、小生は、実は最後の試合も深夜の記者会見も生では殆ど見ていない。見るのが辛かったからと言っておこう。オープン戦から合計すると24打席ノーヒットで開幕戦を迎え、公式戦2試合、6打席ノーヒットで終わってしまった。安打製造機と言われたイチローにとっては、耐えがたい屈辱だったはずである。なぜこのようなことになったのか。それは、昨年の5月から実際の試合を経験していないということに尽きる。いくら打撃の天才であっても、こんなに長く実戦から離れていて、いきなり試合に出されたら、メジャーの投手が本気で投げる球を打つのは難しかったということだろう。
 もう済んだことだから今更何を言っても仕方がないのだが、結果がすべてである。最終打席で、あのボテボテのゴロがヒットになっていれば、それはそれで皆が納得したかもしれない。そうではなかったから辛いのである。マリナーズの首脳陣がなぜこんな理不尽なイチローの使い方をしたのか、日本のファンへのサービスと言うだけでは納得できない終わり方だった。
 せっかく日本での試合にスタメンで出たのであるから、ファンも球団関係者もマスコミも、1本でよいからヒットを見たかったに違いない。そのことはおそらく誰よりもイチロー自身が強く望んでいただろう。小生は、最後にその希望が叶えられなかったことが悔しく、また悲しかった。
 イチローは記者会見で「今日の球場の出来事、あんなもの見せられたら後悔などあろうはずがありません。」と話した。野球人生全体については、その通りなのだろうけれども、最後に1本を打てなかった悔しさが彼の表情ににじみ出ていた。実際に、「やっぱり一本ヒットを打ちたかったし、応えたいって当然ですよね、それは。僕には感情がないって思っている人いるみたいですけど、あるんですよ。意外とあるんですよ。結果を残して最後を迎えたら一番いいなと思っていたんですけど、それでもあんな風に球場に残ってくれて。」と、言い添えている。その気持ちが分かるからなおさら見るのが辛かった。
 その他、イチローの会見を録画で見直して、目立っていたのは、「イチロー選手は、何になるんですか」と問われて、「何になる。うーん……。でも監督は絶対無理ですよ。絶対がつきますよ。人望がない。本当に。人望がないですよ、僕。」という発言である。それを見て、潔い人だと感心した。彼は、自分のバッティングを極めることに全身全霊を賭けてきたのであり、他人の面倒を見たり、チーム全体のことに気を配ったりする余裕がなかったということである。そういうことを正直に認めて、何も卑下することなく、ありのままに自分の監督としての適性のなさを言ってのける態度がすがすがしかった。彼は、一芸に秀でた職人、修行僧、芸術家といった系列に連なる人である。友だちになりたいと思わないが、その一途さ、純粋さが多くのファンとって堪らない魅力なのだ。
 最後の試合を部分的にしか見ておらず、記者会見も事後に見ただけなのに、イチローの引退について愚見をながながと書いてしまった。それほどに、彼は小生にとっても大事な選手だったということだろうか。

by t0hori | 2019-03-24 21:10 | 随想 | Comments(0)  

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