西日本の集中豪雨と死刑執行のニュースについて
2018年 07月 10日
そして、7月6日(金)の朝、大雨のことを気にしながら車で大学へ向かっているとき、音だけのテレビの朝番組で、これからオウム真理教の元教祖、麻原彰晃の死刑が執行されるという報道を聞いて驚いた。その後、麻原に続いて、教団幹部ら6人の死刑が執行されたことを知った。上川陽子法相は、記者会見で「被害者の苦しみは想像を絶するものがある。慎重にも慎重な検討を重ねたうえで命令した」と述べた。かねてより死刑執行の「Xデー」については、様々な憶測が飛び交っていたが、なぜこの日なのか、その理由がよく分からなかった。
7月7日(土)には、西日本各地で豪雨による被害が相次いで報告され、マスコミがそれにかかりっきりだったから、オウム真理教関連のニュースを見る機会が殆どなかった。そして、7月8日(日)の夜、大雨の被害のニュースを見た後、チャンネルをそのままにしていたら、9時からNHKスペシャル「オウム 獄中の告白~死刑囚たちが明かした真相~」がいきなり始まった。番組概要は、以下の通り。
「戦後類を見ない数々の凶悪事件を引き起こしたオウム真理教。教祖・麻原彰晃(本名 松本智津夫)死刑囚はじめ13人のうち7人の死刑が執行された。いったいなぜ、オウムは暴走し、社会の壊滅をもくろんだのか。そして、歴史的事件の裁判で、なぜ麻原は沈黙し、多くの謎を積み残してしまったのかー。NHKは、獄中の麻原の言葉を記した極秘資料や教団が記録した音声テープを独自に入手。“オウム暴走”の真相に迫る。」
麻原らの死刑執行後の特集番組だったから、見ないわけにいかなかった。番組では麻原の弁護団が記録したが最後まで公表されなかった接見報告書、NHKがオウムの死刑囚たちから受け取った手紙、そして、NHKが独自に入手した700本を超す教団の極秘テープの一部を紹介していた。そのテープは、元々は教団のある幹部が、教祖の言葉を個人的に収集するために録音していたものだという。
遠藤:何とも言えません。
麻原:2つの道があるのはわかる?
遠藤:ショックというか、ちょっとびっくりしました。
麻原:びっくりする必要はないよ。それも選択だから。もし政治というものが一切宗教を禁止して私たちに従いなさいと。力でどうするか。
遠藤:我々がですか? 反抗というのは僕は余り好きじゃないですから、仕方がなく従うという道をとるかもしれませんね。日本としてはそういう風な方向になりつつあるんですか?
麻原:なる。間違いなくなる。そしたら警察が何人か来るよね。警察をポアしちゃえばいい。
遠藤:3人の警察官が死んだら、もっと大きな……。
麻原:そうじゃないよ。警察、その3人の警察だけじゃなくてその本署ごと消しちゃえばいいんだから。
遠藤:はい?
麻原:本署ごと消しちゃう。
遠藤:本署ごと消しちゃう?
生々しい会話であるが、これを見ると麻原が相当早い時期から国家中枢への攻撃、クーデタを計画していたことが分かる。そして、このときは慎重な態度をくずさなかった遠藤が、その後サリンの製造に本気で取り組むようになるまでに、どういうことがあったのだろうか。その他の教団の幹部たちも、麻原に教唆されるままに、破滅的な反社会的活動に従事するようになっていた。こうして見ると、麻原には、何かしら人を誑かす能力が備わっていたのだろう。取り巻きの弟子たちは、麻原に気に入られようと、競って凶悪な事件を立案し行動に移していった。今はやりの表現を使えば、これは最高権力者への忖度ということなのだろうか。
かつてフロイトは、独自の精神分析の理論を構築する過程で、おびただしい量の悪魔学や魔女裁判やオカルト事例に関する文献を読みあさった。軽薄に見える麻原の発言や教団幹部たちの言動にも、注意して読み解けば、人間のこころの原風景の深淵を覗き見ることができるかもしれない。宗教学者あるいは思想史家にとって、上記の音声テープはかなり面白い資料なのではないのか。NHKの番組や雑誌の特集だけでなく、これについて本格的な研究が行われることを期待したい。
by t0hori | 2018-07-10 23:58 | 随想 | Comments(0)